導入事例Case
2026.02.02
業務用冷凍パンの常識を覆す、素材と製法にこだわり抜いた「塩パン」開発秘話

「こんなに大変なこと、本当にやるの?」 開発担当者の本音から始まった塩パンプロジェクト。 失敗に終わった機械での生産、複数回に及ぶラインテスト、そしてリリース直前の原材料変更。 「ベーカリー品質」を再現するために奔走した、開発チームの舞台裏に迫ります。
立ちはだかった「機械化」の壁と、手作業への回帰

ー最初に塩パンの開発プロジェクトが立ち上がったときの率直な気持ちを教えてください。
開発(宮地):正直に言うと、最初は「本当にこんな大変なことをやるの?」と思いました(笑)。以前から塩パンに挑戦したい気持ちはあって考えていたのですが、考えるほどに難しいパンだなと。 大手メーカーで製造の機械化を実現できなかったほど、業務用商品として量産するには難しいパンです。
ー開発当初は製造の全工程を機械化することも検討されたそうですね。
開発(宮地):はい。生産性を考慮して、最初は完全機械化を見越した試作をしました。 しかし、結果は散々でした。私たちが目指す中からじゅわっとバターが溢れる「塩パン」のイメージとはかけ離れてしまい、生地とバターが一体化したようなパンになってしまいました。焼き上がりも平べったく、塩パン最大の特徴である「中の空洞」も生まれませんでした。
開発(佐藤):まるでクロワッサンと塩パンを足して2で割ったような、中途半端なものができてしまって(笑)。田中社長に試食してもらった際も、「これは塩パンではない」と即答で却下されました。
ーそこで「手巻き」に切り替えたわけですね。
開発(宮地): そうです。田中社長が機械で作ったものと、手で作ったものを食べ比べた瞬間、「これだね」と手作業の方を選んだんです。 業務用としては異例の手間がかかりますが、あの「外サクッ・中もちっ」の食感と、バターの空洞を作るには、人の手で一つひとつ巻くしかないと腹を括った瞬間でした。
工場生産の常識を覆す手作業「3巻き」と「何度も行ったラインテスト」

ー手作業に決まった後も、形状の決定には苦労されたとか。
開発(宮地): 当初は生産性を考えて「2巻き」で進めていました。しかし、それでは焼き上がりがのっぺりとしてしまい「ふんわりと丸い形」にはならなかったんです。 そこで、より難易度の高い「3巻き」に挑戦しました。巻き数を増やすことで、生地に高さが出て、表面にも美しい段差が生まれます。
開発(佐藤):これを工場の製造ライン上で再現するのが本当に大変で......。 通常、工場のラインテストは1〜2回、期間も1ヶ月以内で終わるのですが、今回は「7回」も実施しました。期間も2ヶ月間フルに使っています。 昼間の生産が終わった後の夜中からテストを開始することもありました。
ー製造現場の方々の反応はどうでしたか?
開発(佐藤):最初は慣れない作業に戸惑ったと思いますが、回数を重ねるごとに工場メンバーも「絶対に成功させるぞ」という気概で一丸となってくれました。製造ラインでのテストは、通常の製造業務のスケジュール調整をしながら行わなければならず、製造現場のスタッフにも負担をかけてしまいます。それでも、毎回テストには多くのスタッフが集まってくれました。5回目のラインテスト終了後あたりで「これはいける!」と手応えを感じた瞬間はとても感動しましたね。
味の決め手は「0.1%刻みの配合」

ー 味の核心となる「塩」と「バター」にはどのようなこだわりがありますか?
開発(佐藤):まずバターですが、パン作りでは一般的に無塩バターを使うところ、シャープな味わいを出すためにあえて「有塩バター」を採用しています。 良質な生乳が特徴の北海道産バター(※)を採用しました。
塩は、高知県産海洋深層水由来の平釜塩を使っています。試作当初は藻塩で進めていたのですが、藻塩独特の旨味とミネラルの甘みは、今回の塩パンでは少しぼんやりした塩味になってしまうと感じました。ホテル朝食に特化した、素材の良さをダイレクトに感じる上質な味わいを表現するためには、キレのある平釜塩の方が合っています。
塩味を感じさせつつも角がない、最適なバランスを見つけるために、配合量は0.1%刻みで何十パターンも試作したので、試作の回数はもう覚えていませんね。
ーリリース直前に小麦粉を変更したという話も伺いました。
開発(宮地): はい、本当にギリギリのタイミングでした(笑)。 試作段階で、どうしても表面に細かいシワや焼きムラが出てしまうことが気になっていて。ボリューム感と表面のハリを出すために、もう少しで原材料が確定するという段階でしたが、思い切って小麦粉の配合を変えました。 その結果、もっちり感を維持したまま、美しい焼き色とさっくりした食感の皮ができる納得の生地が完成しました。
開発(佐藤): 完成した塩パンを見て、社長も「これだね」と。 単なる一商品ではなく、開発チーム全員が成長できるほど濃密なプロジェクトでした。工場生産の限界に挑戦したと思います。
※バターの供給状況によって北海道以外の国産バターを使用する可能性があります。
ホテルの朝食を「塩パン」が変える

ー最後に、この塩パンをホテルでどのように使っていただきたいですか?
開発(宮地):実は、塩パンほど「焼成冷凍パン(焼き上げてから冷凍するパン)」に向いている商品はないと思っています。 バターをたっぷり使うパンは酸化(劣化)が早いのが弱点ですが、焼きたてを急速冷凍することで、一番美味しい状態に閉じ込められます。
ホテルの朝食会場では、食べる直前にリベイク(再加熱)していただくだけで、外はサクッ、中はもっちり、バターがじゅわっと溢れる「焼きたて」を提供できます。一番美味しい状態で召し上がっていただくために、最適なリベイク方法を何度も検証しました。
お客様がホテルの朝食で食べたときに、「パンのことなんて普段考えないけど、これは、美味しいな」と感じてしまう。そんな体験を作りたいですね。 塩パンを楽しみに朝食会場に向かうような、新しい「朝食のスタンダード」になればと思います。
ーありがとうございました。ホテルの朝食会場で、こだわりの塩パンが並ぶ日を楽しみにしています。
※本記事は社内インタビューに基づいています。最新の商品仕様については、製品カタログをご確認ください。